名古屋高等裁判所 昭和24年(控)258号 判決 1949年11月11日
被告人
上谷紀一
主文
原判決中被告人に関する部分を破棄する。
被告人を懲役四月及び罰金五千円に処する。
但し右懲役刑について本裁判確定の日から四年間その刑の執行を猶予する。
右罰金を完納できぬときは金百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
原審における訴訟費用中被告人の爲に生じた部分は全部被告人の負担とする。
本件公訴事実中被告人が賍物を運搬した事実は無罪。
理由
職権を以て調査するに原判決はその事実摘示において賍物牙保の事実と共に賍物運搬の事実を記載しているがその法令適用の記載によれば右賍物運搬の事実を單に賍物牙保に到る経過的記載即ち起訴されていない事実と解しているのかそれとも起訴された事実であつて且つ有罪と解しているのか頗る疑わしい依つて本件起訴状を檢するにその訴因として明かに賍物牙保罪の外に賍物運搬罪の構成要件に該当する事実を具体的に完全に記載し且つその罪名としては賍物運搬牙保という記載と共にその該当の法條である刑法第二百五十六條第二項を摘記しているのでありこれ等の事実を無視して賍物運搬の事実を以て擅に起訴されていない事実と速断し去ることは許されない從つて原審が前者の見解に立つていたとすれば原判決は刑事訴訟法第三百七十八條第一号に所謂審判を求められた事件を審判せぬ違法があり更に又本件においては曩に認定したように被告人がその賍物を牙保する爲にそれを運搬した丈のことであつていわば未遂罪と既遂罪の関係と同じくその運搬罪は牙保罪に吸收されて別個独立の犯罪を構成せぬ場合であるから原審が後者の見解に立つてこれを有罪としたものとすれば同法第三百八十條に所謂判決に影響を及ぼすこと明かな法令適用の誤があることになりその何れの場合であつたとしても同法第三百九十七條によつて原判決中被告人に関する部分は破棄せられるべきものである。